子供のお絵描きは、主に二つの重要な役割を果たしています。
- 心、感情を育むもの
- 視覚イメージ操作という人間の最も大切な情報処理機能を優位に獲得するための手段
1歳では、主に運動機能を獲得する時期です。もちろん、言葉の吸収も同時に行っていますが、
視覚や聴覚といった感覚器の発達と、そして二足歩行とある程度細かな手の動きが
出来るようになることが課題とも言えるでしょう。
ですから、1歳台のお絵描きはまだ殴り描き(手の運動の跡を残す)という段階であるとも言えます。
2歳では、子供が自分の描いた絵に意味づけをするようになることからも分かるように、
言葉と視覚イメージを結び付けることが出来るようになります。
しかし、最初に自分が描いたものに対して、後から意味づけをする傾向があることと、
意味づけの内容がころころ変わる性質のものであることからしても、
記号である言葉と視覚イメージの関係性はまだ不安定なものだと言えます。
3歳では、自分の中にまず描くべき内容の視覚イメージが想起され、
それを絵に描く傾向が強くなります。
ですから、大人が間違った解釈をすると怒られるということが起こります。
2歳と3歳では同じ意味づけでも、その内容は明らかにことなることが分かります。
記号である言葉と視覚イメージの関係性が強くなってきました。
4歳では、点、線、丸といった形以外の複雑な形が描けるようになってきます。
それと同時に、自分の中の視覚イメージをストーリーとして絵に表現できるようになってきますし、
また言葉でもそれを表現することが出来るようになってきます。
つまり、ここで子供たちは、言葉を介在しながら視覚イメージを操作する準備が
出来たということが言えるのではないでしょうか。
5歳になると、こどもたちはかなり複雑なことも絵に描けるようになってきます。
また、理論的なことが分かるようにもなってきます。
ここから、子供達は4歳までに習得した視覚イメージと言葉と手の運動技術(絵)を使って
学力(生きる術)を養成していく段階に入って来ました。
ただし、5歳のお絵描きの特徴にも見られるように、
この時期はまだまだ自分の知り得た事実や興味のあることを描く傾向にあること。
そして、抽象的な思考が出来るようになっては来るが、
それがほぼ完成する9~10歳頃までは、
具象と抽象を行き来することが必要であることが注意すべき点です。
つまり、5歳から9~10歳までは、より高いレベルでの学力を養成するために、
視覚イメージの想起を、文字を介在しながら楽しむこと。(理解)
そして、その視覚イメージを自由自在に操作できるようにすること(思考)を
習慣づけることが大切です。
もちろん、4歳までに行き過ぎた文字・数字学習や知識を詰め込むなど余計なことをしない方が、
人間がもともと持っている生きる力をストレートに発揮できることは言うまでもありません。
9~10歳になると、子供達の脳機能自体はほぼ大人と同様のものになります。
とはいっても、敏感期であるため、数年はゆっくり・じっくり・丁寧に過ごすことをお勧めします。
9~10歳頃になると、子供達は程度の差はあれ、抽象思考が出来るようになってきますので、
そこから理解や思考の展開を数式や文字で表現していく、
そういったプレゼンテーション力を身に着けていくとよいでしょう。
このようにして、子供のお絵描きは、
子供達が人間として生きるために必須の力を身に着けるために特に重要なことだと言えます。
そして、それを実現する力は外から与えるべきものではなく、
もともと子供たちのなかにプログラムされているものなのです。
周りの大人が出来ることは、そのプログラムが滞りなく発動される環境を保証することにあります。
ですから、子供の絵に、出来るや上手を求めるのは大変損なことだということだけではなく、
その後の子供達の健全な発達において悪影響を及ぼしてしまうということを特に意識したいものです。